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イギリス行動インサイトチームの報告書をみてみた。

Nudgeの事例紹介



イギリスの内閣府には、民間慈善団体らと共に運営している行動経済学の特別チームがあります(BIT: The Behavioral Insights Team)。
行動経済学者・心理学者・政策学者などの頭脳が集められ、イギリスはもとより世界の政策課題を行動経済学の知見を用いて解決することを目指しています。
Webページには様々な報告書や論文が掲載されており、今日はその中からWISH Behavioral Insights Forum 2016 “ APPLYING BEHAVIORAL INSIGHTS SIMPLE WAYS TO IMPROVE HEALTH OUTCOMES”という報告書の内容をまとめてみました。

 

<EASTモデル>

EASTモデルとは行動経済学の知見を応用する際に検討すべきコンセプトをわかりやすくまとめたものです。
Easy, Attractive, Social, Timelyの頭文字をとってEASTモデルと名付けられています。

 

Easyとは望ましい行動をとりやすくするために、行動のハードルを下げるということです。
具体的には、
健康的な選択肢をデフォルトオプションとする
ICTを使って利便性を高める(Video-DOTSの例)
有害な商品の販売サイズを小さくする
等の例が挙げられています。

 

Attractiveとは人を引きつけるように訴求力を高めるということです。
人間は毎日大量の情報を処理していますので、ただ単にメッセージを社会に訴えかけるだけでは人々の頭の中には浸透しません。
・メッセージを工夫する
・単純化された情報を伝える
・視覚的な演出を加える
ことなどが有用であるとされています。

 

Socialとは人々が影響される社会環境をうまく利用しようとすることです。
人間は意思決定をする際、社会の流行や周りの人間の行動に大きく影響を受けることが知られています。
・他の大多数の人がどのような行動をしているのかを伝える
・周りの人が実際に行っているところを見れるようにする
・新しい行動を広めるために社会ネットワークを利用する
といった事が挙げられています。

 

Timelyとは適切なタイミングで介入を行うということです。
人には行動を変えるためのキッカケとなるようなイベントがたくさんあります。
・イスラム教徒にとってラマダンは糖尿病の空腹時血糖スクリーニングを普及させるのに良い機会である(日中は絶飲食なので、検査のために空腹をわざわざ我慢する必要がないため)。
・多くの人にとって年末年始は新たな目標を設定する時期でもあり、介入のチャンス
・手術を受ける時には、禁煙を勧めるのに適している。
等のようにタイミングを見計らって介入を行うと行動変容につながる可能性が高くなるようです。



<検証を行うことの重要性>

これまでの行動経済学が示してきたのは、人間の行動はほんの些細なことに大きく左右されるということです。
食器の大きさ、スーパーでの陳列の順番、棚の何段目に配置されるか等、少しの違いが影響を与えるのです。
つまり上記のEASTモデルを元に行動介入を立案しても、ちょっとした環境要因や文化的背景などの要因でうまくいかないことも予想されます。
そのためこの報告書では、日常的な介入の延長としてアウトカムの評価を適切に行うように提言しています。ランダム比較化試験が望ましいとされていますが、費用や手間がかかるという問題もあります。いずれにせよ、なんらかの方法での評価が必要でしょう。
行動介入については近年注目を浴びているものの、未だに新しい分野です。
どのような場合に、理論が当てはまらないかを検証したりすることが重要なのはいうまでもなく、懐疑的な意見をもつ科学者や政策立案者を説得するためにも適切なデータ収集が必要となります。

 

<APPLESモデル>

政策立案を行動科学でサポートするチームに必要な条件についても触れられています。
APPLESは、Administrative support, Political support, People, Location, Experimentation, Scholarshipの頭文字から来ています。
行政官僚達や政治家とのコネクションを築き行動科学を浸透させること(Administrative support, Political support)、
多分野から優れた人材を集めること(People)、
オフィスを政治や行政の中心地に構えてステークホルダーと密に連携をとること(Location)、
効果検証を適切に行いエビデンスを蓄積すること(Experimentation)、
最新の知見を有する科学者を支援し、アドバイザーとして活用すること(Scholarship)、
が肝要であるとしています。

 

<まとめ>

  • EASTモデルは実際の行動介入を検討する際に役立つコンセプト
  • 行動介入の結果は予測不能なため、効果検証のプロセスを適切に設ける必要がある
  • 政治を動かすためにはAPPLESのような条件を満たすべき。

<文献リンク>

WISH Behavioral Insights Forum 2016 “ APPLYING BEHAVIORAL
INSIGHTS SIMPLE WAYS TO IMPROVE HEALTH OUTCOMES”



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