誰にも教えてもらえなかった、未来を描くための戦略
私は、思いかえせば高校生ぐらいの時から未来を描けないという感覚を抱えていました。
世の中を見渡せば、男性は女性と恋愛し、結婚するものだというメッセージが、学校、メディア、家族の会話、その至るところに溢れていました。結婚しない男は、どこか性格に問題があるか、一人前ではない未熟な人間として扱われる。それが当時の日本の息苦しい空気でした。
周囲を見ても、カミングアウトをして堂々と学校に通っている学生は、一人もいません。先生の中にもいなかった。クイアで公の場にいるのは、せいぜいテレビの中でいじられキャラとして活躍するタレントと呼ばれる人たちぐらいで、普通にスーツを着て会社で仕事をしているような、社会に自分らしく生きている大人は誰一人として知りませんでした。
そんな環境で、友人や家族にカミングアウトなど、できるはずがありません。
一生この秘密を抱えて生きていくのだと思うと、苦しくてたまらなかったのです。
極端な思考ですが、事故かなにかで人を助けて不幸にもこの世を去ることがあれば、両親も少しは心の折り合いがつくのではないか、そして私も気持ちよく旅立てるのではないかとさえ、本気で考えていた時期があります。だから、30歳を過ぎても自分が生きている姿など、想像もできませんでした。
誰も与えてくれない「未来の設計図」
私たちの苦しみは、精神的なものだけではありませんでした。
社会の仕組みだって同じです。日本では未だに同性婚が法制化されていません。もし心から愛せる素敵な伴侶をみつけたとて、どうやって「家族」として生活すればよいのか?誰も教えてくれません。
- どうやって、この社会の中で自分のセクシャリティに自己肯定感を持って受け入れればいい?
- 海外で同性婚をするには、どんな手続きが必要なのか?
- 同性パートナーのビザや、安全な生活拠点をどう築けばいい?
- 職場や家族へのカミングアウトは、どんな準備が必要なのか?
- そして何より、自分とパートナーを守るための資産という名の防御壁をどうやって構築すればいい?
多くのことが、あまりにも手探りでした。世の中のデフォルト(初期設定)は、圧倒的に異性愛者に偏っています。私たちのようなクイアな人たちが「安全に、そして豊かに」生きていくための知恵と戦略は、誰かから与えられるものではなく、能動的に、私たち自身の手で手に入れていくしかありません。
その過程で私が学んだ知恵、そして苦しみを乗り越えて得た哲学は、既存のどの人生論にも書かれていませんでした。
ゼロから築いた「私たちの豊かさ」
私は、自分の直感と、たくさんの断片的な情報を頼りに、その道を切り拓いてきました。
その道程は決して平坦ではありませんでした。夫と出会ったときには私はまだ自分になんの自信も持てない研修医上がりの医師でした。おまけに留学費用を捻出するためにお金も大してありませんでした。
そこから様々な困難を乗り越えて、今では夫とフランスで結婚し、日々のささやかな幸せに溢れた、楽しい暮らしを送ることができています。そしてなにより、今では自分がクイアであることを誇りに、また愛おしく感じています。
このブログは、その過程で私が組み立てた「自己防衛の戦略」と、「自分らしく幸せに生きるための哲学」を記していきたいと思います。
かつて未来を描けずにいた私自身のような人の支えになってくれればと願い、筆をとることにしました。単なる感情論でもなく、愚痴でもなく、自分の人生のコントロールを取り戻し、大切な人と共に幸せに生きるための知恵をみなさんと共に育てていければと思います。


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