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フリーランス内科医をしてみた感想

フリーランス医師マニュアル

はじめに

私は昨年度末に常勤病院を退職し、MPH留学までの約2ヶ月フリーランスの内科医として仕事をしていました。
まだまだヒヨコドクターの私には、内視鏡とかカテーテルといった特殊スキルはもちろんありません。
出来るのはプライマリ・ケア医としての処方調整や、生活習慣病コントロール、専門医紹介までのゲートキーパー役をなんとかこなす程度でした。
(当然プロの家庭医の先生とは実力に雲泥の差があります。)
また2ヶ月と短い期間のため定期非常勤契約は困難だったため、基本的にはエージェントを通じてスポット求人に応募して、単日のみの勤務をあちこちでするような形でした。
具体的な業務内容としては、学校健診・企業健診・一般内科外来・内科訪問診療を中心に行っていました。

 

勤務先で看護師さんや事務員さんから話を聞く限りでは、私のような若手医師で留学前にバイト生活で生計を立てている医師は珍しくはないようです。
少しでも他の人の役に立つように、私が体験したフリーランス生活のメリット&デメリットについてまとめてみたいと思います。




 

メリット① 時間に余裕が生まれた

そもそも常勤を辞めたのも、留学準備のために時間的な余裕が必要となったからでした。前職の病院はいわゆる急性期病院でしたので、当直も法定の上限回数ギリギリでしたし、時間外勤務が100時間を超えることも珍しくありませんでした。
留学するにあたり、ビザの申請や各種手続きで膨大な時間を要することが予想されたため常勤のまま渡米の準備をするのは不可能と判断しました。

 

実際にフリーランスになると完全週休2日となりましたし、平日もほぼ8時間勤務で日程を組めるようになりました。ビザ申請などで大使館に行く必要がある際も、予定を自分であらかじめ調整して仕事をいれないようにしていました。
仕事がある日も残業がないため、家にかえって家事をしたり、本を読んで勉強をしたり、友達と飲みに行ったり、映画をみたりと人間らしい充実した生活を送ることが出来ました。

 

人生の転換期で時間にゆとりが必要な人にとってはフリーランスも悪くないかもしれません。

 

メリット② 人間関係のストレスがなくなった

毎日職場が変わるので、良くも悪くも後腐れがありません。
職場のスタッフに多少の苛立ちを感じることがあっても、1日限りだと割り切ればそんなに気にはなりません。
また院内や診療科内での雑用とは無縁のため、純粋に自分のために時間を使うことが出来ます。
強制的に参加させられるような病棟の懇親会もありませんし、人間関係の煩わしさからは見事に解放されました。

 

メリット③ 適正に評価される実感

スポット勤務を常勤や定期非常勤契約への「おためし」と捉えれている病院・クリニックも少なくないようです。
勤務した職場から、「患者さんからの評判が良いので是非今後も勤務してほしい」とお声掛け頂いたこともあり、実際に複数回の勤務に結びついたこともありました。
病院側からすると「人手不足なので誰でも良いから来てほしい」というのが本音だとは思いますが、それでも自分の仕事を認めてもらえるというのは嬉しいものです。
また評価を上げることによって交通費の条件などについても交渉力を持てるようになります。

 

仕事を精一杯して、次のより良い条件の仕事につなげるという感覚を初めて味わえたのは、貴重な経験だったと思います。



デメリット① 雑務にかかる時間が増えた

スポットの仕事を週5日探す場合には20件/月の案件をとってくる必要があります。私の場合はエージェント3社に登録していましたが、毎日平均で1-2時間程度は仕事の調整に時間を費やしていました。
また条件の良い求人は競争率も高く、応募した案件ですぐに採用されるとは限らないので、1日の枠を埋めるのに3件程度は問い合わせをしていました。

 

さらに各医療機関毎に医師免許や給料支払に関する手続きを行い、マイナンバー送付等を自分で管理する必要があります。
今年度の確定申告では膨大な数の源泉徴収票を集める必要があり、入力も自分でやると非常に面倒くさそうなので今から戦々恐々としています。

 

また、条件面に交渉の余地がある時にはエージェントを通じて自分の要求を適切に先方に伝えることもあります。

 

フリーランスになると社会保険料や税金の払込を自分で行う必要が出てきます。こちらは役所に行けばすぐに解決出来る問題なのですが、やはり面倒なものは面倒です。

 

デメリット② 経済的に不安定

仕事の求人には当然ながら波があります。
4月は学校健診や企業健診のおかげて求人数も安定しているのですが、GW明けから求人が一気に少なくなった印象でした。
予定を埋められずに、空白となってしまった日もありましたが、
仕事が思うように獲得できないと、ものすごく不安な気持ちになったものです。
また万が一にでも体調を崩してしまうと、収入はゼロになりますし、医療機関やエージェントからの信頼を失ってしまう可能性もあります。
この時ばかりはスポット契約の不安定さが身にしみました。

 

デメリット③ 可処分所得は思ったより増えなかった

フリーランスとして働くようになり時給単価は上がりました。
一般的に内科外来・訪問診療の日給はおおよそ6-8万円程度なので20日/月の稼働で月収は額面120-160万円くらいになるかと思います。実際に私もこのレンジに収まっていました。
社会保険料付きの契約であれば、労使折半となるため負担が軽くなりますが、フリーランスは全額自腹になります。
また、毎日仕事を確保するためには広域なエリアをカバーできる地域に住む必要が生じます。
すると必然的に都市部のターミナル駅付近に家を借りることとなり、高額な家賃を払うことになってしまいました。
実際に私は毎月、一般企業新入社員の手取り分くらいの家賃を払っていました。
これらの要因を勘案すると前職に留まった方がが貯蓄できたような気もします。
しかし働く時間の短さや、平日でも休みを自分で作れるという利点を考えると妥当な選択だったと思います。



デメリット④ 知識・スキルが伸びない

スポット勤務だけとなると、常勤のように勉強会やカンファレンスといった教育機会が皆無となります。
マネジメントに困っても気軽に相談できる人もいません。
知識だけであれば教科書を読んだり、ケアネットTVなどを使ってある程度は維持することが出来るのですが、実務での微妙なさじ加減などはやはりベテラン医師から学ぶ他に方法はないと思います。

 

また単回での勤務だと自分が診察した患者がその後どのような経過を辿ったのかを知る術がないためフィードバックを得ることができません。
これでは自分の治療方針が正しかったのかを振り返ることもできないのです。

 

このようにスポット勤務だけを続けると、知識が偏ったものになるリスクが高くなると思われます。
常勤病院での環境がいかにスキルアップの面で恵まれていたかを痛感しました。

 

またフリーランスになりたいか

2ヶ月半のスポット勤務生活をしてみて、もうこの働き方はしたくないというのが本音です。
一番の理由は、臨床医の醍醐味である患者さんとの継続的な関係が持てないことでした。長期に渡って信頼関係を築くことでよりきめ細やかな疾患管理が出来ますし、予防や社会調整にも携わることができます。
スポット勤務では医師としての「やりがい」や「おもしろさ」を感じることが出来ませんでした。

 

知識維持のために臨床は細々と続けていきたいのですが、その時には定期非常勤としてどこかの内科外来や訪問診療に継続的に関わっていくのが理想的かなと思い描いています。
その中で教科書やWeb教材だけではなく、他のドクターから学びながら臨床医として成長できれば最高です。

 

私がスポット生活を始めた時に参考にできる情報はほとんどありませんでした。この記事が少しでも誰かの役に立てれば幸いです。



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