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新米産業医が有機溶剤作業主任者講習を受けてみたらとっても勉強になった話

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有機溶剤作業主任者講習を受けた理由

現在、私は有害物資を取り扱う事業場で産業医をしています。当然月に1回の職場巡視もしています。
でも新米産業医の私が職場を見に行っても、まず何を確認して何を指摘していいのかが全く分からなかったのです。
現場の担当者にアドバイスが出来ても、せいぜい掲示物の更新や5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)に関すること、熱中症対策などという産業医としてはあるまじきレベルでした。もっと現場の人の健康に貢献出来るようなアドバイスが出来るようにならねば、という思いもあり有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則の条文をネットでパラパラと眺めてみたのですが、これが笑ってしまうほど頭に入ってこないのです。
保護具や排気装置、法令など覚えることは山のようにあるのです。しかも、これらを学ばないことには現場の担当者の方と共通言語で話すこともままなりません。
そこで先輩産業医に相談したところ、有機溶剤作業主任者の講習会が非常に良いというアドバイスをいただきこの講習会を受けることにしました。

有機溶剤作業主任者とは

作業主任者は労働安全衛生法14条に定められている作業主任者のひとつであり、作業の区分に応じて選任が義務付けられています。有機溶剤作業主任者の場合には以下の職務が規定されています。(有機溶剤中毒予防規則19条の2)

 一  作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸入しないように、作業の方法を決
    定し、労働者を指揮すること。
  二  局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を一月を超えない期間ごとに点検するこ
    と。
  三  保護具の使用状況を監視すること。
  四  タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第二十六条各号に定める措置が講
    じられていることを確認すること。

なにやら堅苦しい文言が並んでいますが、有機溶剤を使用する職場において作業者を指揮し、保護具や換気装置が適切に使用出来るように点検や監視を行うことが職務となります。
この資格を取得するためには各都道府県の労働局の登録を受けた機関で講習会を受講する必要があります。

講習会の流れ

合計12時間の講義+1時間程度の修了試験を受ける必要があるため、スケジュールは2日間の日程で組まれていました。
具体的には

有機溶剤による健康障害及び予防処置に関する知識 4時間

衛生保護具に関する知識(主にマスクについて) 2時間

作業環境の改善方法に関する知識(主に排気装置について) 4時間

関係法令 2時間

という構成になっていました。最後の修了試験に合格しないと資格をもらえないので非常に緊張しますが、講師の方が講義中に「ここ大事なポイントです!」と教えて下さり重要事項の復習などもしてくださったので全く問題のない難易度でした。
私は本を読んで勉強するのが苦手ですが、講義を聞くのは苦痛という方は中災防のテキストを利用して自学自習するのも良いかもしれません。講義もこちらのテキストに準じて行われました。
https://www.jisha.or.jp/order/tosho/index.php?mode=detail&goods_cd=23274

有機溶剤による健康障害及び予防処置に関する知識

このセクションでは有機溶剤の物質的な性質や健康障害の種類について学びます。例えば有機溶剤は一般的に比重が重く滞留しやすいため、意識を失って床に倒れてしまうとさらに曝露してしまい、最悪の場合死に至るといった内容を実際の事例を元に講義して頂けます。
また生理的な特徴についても学び、曝露した際の吸収経路や物質毎の蓄積部位、起こりうる健康障害の種類について学びます。また心肺蘇生法についても学びますが、このあたりは産業医としてはやや退屈な部分かもしれません。

衛生保護具に関する知識(主にマスクについて)

こちらでは防じんマスク・防毒マスクの使い分けや破過時間・破過曲線の解釈について重点的に学びました。さらには送風機付きのエアマスクなど見たこともないような器具が次から次へと紹介されてなかなかおもしろかったです。私が受講した際には衛生保護具を製造されている企業の方が講師でお越し下さり、実際の器具を見ながらの説明だったためイメージが湧きやすく非常に勉強になりました。

作業環境の改善方法に関する知識(主に排気装置について)

また、産業衛生管理の基本である3管理を学び、もっとも最初に行うべき措置はそもそも有害な物質を使わないようにすることだという優先順位について口を酸っぱくして教えられました。その上で、局所排気装置や全体換気装置についても学びます。それぞれの特性や制御風速などの重要コンセプトについて学習しました。
ここでも有機溶剤の特徴である比重が重いという特性と結びつけながら講師の先生が話を展開してくださったため興味深く聞くことが出来ました。

関係法令

関係法令については労働安全衛生法やそれに付随する法令について学習しました。
主に作業主任者の責務についてや、健康診断、作業環境測定の頻度や届け出義務について学習しました。
法令とは何かというところから話がスタートするので個人的には眠気との戦いになってしまったのですが、非常に重要なセクションでした。

講習会を受けて何が変わったか

講義の内容を一字一句覚えているわけではないですし、制御風速の規定などもすぐに忘れてしまうのですが、産業医の職場巡視をした際に確認するポイントが少しずつ増えてきたように思います。
作業環境管理としての排気や物質はどうなっているか。排気装置は正常に作動しているか、定期的な点検が行われエビデンスが保管されているか、、、作業管理として保護具はどうなっているかなどなど作業主任者の講習会で習ったことを1つずつ現場で確認出来るようになりつつあると思います。
また、現場の担当者との共通言語が出来たことでコミュニケーションもスムーズに行くようになったように感じます。
私のように新人産業医で有害業務に全く馴染みがない人にはこういった学習の機会を利用して少しでも自身を付ける事が産業医としてのレベルアップに繋がるのではないかと思いました。端的に言って有機溶剤作業主任者は非常にオススメです。

どこで講習会を受けられるのか

前述の通り各都道府県の労働局長に許可を受けた機関での講習が必要となります。
参考までに東京都のリストを掲載しておきます。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/_85160/_83373.html
費用は2日間(テキスト込)で14000円-18000円程度だったように記憶しています。

ついでに特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者もとってみた

有機溶剤中毒予防規則を少しばかり理解したところで、後日特定化学物質及び四アルキル鉛等作業主任者も受講してみました。内容としては有機溶剤作業主任者とオーバーラップしている部分が7割という印象でしたので、個人的にはこちらは中災防のテキストを購入して自習でも良かったかなと感じています。

まとめ

有機溶剤作業主任者を取得するのは有害業務を扱う事業場の新米産業医や、これらの管理に苦手意識のある人には非常におすすめです。2日間を費やす価値があると思います。
是非ご参考になれば嬉しいです。

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