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いまあるものを大切にする-ポジティブ・ディビエンス・アプローチ-

Nudgeの事例紹介

ポジティブディビエンスとは


今回は行動変容のアプローチとして今回はポジティブ・ディビエンス・アプローチ(Positive Deviance Approach:以下 PD )について取り上げます。
これまで健康信条モデルのように人間の行動がどのように規定されるかについての記事も紹介してきました。これらの理論は人間の意思決定をモデル化することにより、問題点を明らかにし、介入ポイントを発見するというアプローチをとっています。他方でポジティブディビエンスは理論からスタートするのではありません。自然と社会の中に存在する現象を観察し、ちょっと変わった良好事例(=PD)を水平展開し問題を解決しようとするアプローチをとります。

ベトナムの奇跡

PDの成功事例として最も有名なのは1990年にベトナムで行われたSternin氏らによる栄養不良改善のプロジェクトでしょう。
http://utminers.utep.edu/asinghal/Articles%20and%20Chapters/pd%20wisdom%20series/PD-Vietnam%2011%20July%202010.pdf

当時Sternin氏はベトナム側の政府関係者から6ヶ月以内に成果を出さないとビザの更新は出来ないと言われ、超短期間でこの難題に取り組むことになります。対象コミュニティに住む3歳以下の子どもたちの64%が低体重だったという悲惨な状況からのスタートです。

そこで彼がとった手法がPDによるアプローチでした。「64%が低体重だ」という部分ではなく、「36%は低体重ではない」と捉え、彼は貧困な家庭で育っている子ども中にも栄養状態が良好な子どもがいることに着目しました。そしてどうして家庭の経済状況が芳しくないのにも関わらず良好な影響状態が保てているのかを調査しました。すると以下のようなポイントが明らかになったのです。

①通常の家では食べさせていなかった芋のツルを食べさせていた。また水田では無料で手に入るような小さなカニやエビを食べさせていた。これによりタンパク質を十分に取ることが出来るようになっていた。

②食事は保護者が直接口に運んで食べさせることによって、食べこぼしを防いでいた。

③通常ベトナムの農家では朝夕の1日2食のスタイルが一般的だが、PDの家庭では1日の食事の食事が4-5回と多かった。これにより総摂取カロリーが標準より多かったと考えられる。

④食前に手洗いを必ずさせていた。これにより下痢などの栄養不良の原因となる疾患を予防していたと考えられる。

ここでのポイントはこのようなPDの特徴を調査し、ポイントを抽出したのは対象コミュニティのボランティアだったというところです。Sternin氏はあくまでもファシリテーターとして携わり、コミュニティの人達自身で解決する方法を考え、対策を実行するようにサポートしたのでした。
これらの知見を元にプログラムが設計され、知識詰め込み型ではなく、実際に上記のポイントを実践しながら学ぶ2週間のトレーニングプログラムが行われました。その結果、対象コミュニティの85%の子どもたちの栄養状態が改善したとされています。このプログラムは次々に水平展開され、7年間で5万人もの子どもの栄養状態改善に貢献しました。

事例から学ぶべきこと

ないものねだりではなく、あるものに着目する


仕事をしていると、どうしても「ないもの」には目が行きがちで「あるもの=資源」の力を過小評価しがちです。マーケティングの世界で用いられるSWOT分析のようにStrength(強み)を活かすことも戦略の1つとして極めて重要だと考えます。
皆さんのフィールドにもきっとPDとなる人や集団がいるはずです、ないもの探しではなく、隠れたPDという宝探しをしながら日常の業務に当たると新しい発見があるかもしれません。

対象コミュニティを巻き込む

PDを探した後、何がキーファクターとなっているのか、どうやったら上手くプログラムに落とし込めるのか、教育を受けた実務家ほど専門家の意見だけで決めつけがちです。私自身も経験があるのですが、キーファクターを勝手に部外者が決めてプログラムを作った結果、対象コミュニティにのニーズが全く拾い上げられておらず浸透しないということも珍しくありません。またPDはコミュニティの中の「変わり者」でもあり、社会的規範として行動が浸透していない場合もあります。それを部外者が押し付けることで反発も考えられます。あくまでも「自分たちで発見した」という感覚をコミュニティ内で共有し、それをコミュニティの目標としてもらうことで新しい社会的規範を作りやすくなると考えます。また専門家が常に対象コミュニティと関わることも難しく、持続可能な取り組むという視点でも対象コミュニティの巻き込みは重要です。

資料

さらに具体的な実践手法を知りたい方はこちらの文献がおすすめです
http://www.cps.kumamoto-u.ac.jp/seisakusozo/seisaku/pdf/03/04.pdf

他の事例についてもしりたい方はこちらへ
http://www.pd2s.m.u-tokyo.ac.jp/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nettai/7/2/7_49/_pdf
https://positivedeviance.org/

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