このブログのタイトル「Nudge for Health」にもなっている「Nudge」について取り上げてみたいと思います。
最近ではビジネス誌などでも頻繁に取り上げられるようになり、すこしずつ認知度が高まっているキーワードですが、イマイチ正しく理解されていないと感じることが多かったので取り上げることにしました。
Nudgeとは
本来は「肘で軽く小突く」というような意味の単語です。
一般的に行動科学の世界ではRichard Thalerの定義が引用されます;
「A nudge, as we will use the term, is any aspect of the choice architecture that alters people’s behavior in a predictable way without forbidding any options or significantly changing their economic incentives. To count as a mere nudge, the intervention must be easy and cheap to avoid. 」
(Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happinessより引用)
簡単に日本語に訳すと
Nudgeとは人々の行動を何かを禁止したり金銭的に大きなインセンティブを与えることなく、予測可能な方法で導く選択の設計/仕掛けのことです。
人々の行動を「そっと後押し」するような仕掛けだと考えるとイメージが湧きやすいかもしれません。
しかし、いくつか大事な但し書きが付いています。
- 何かを禁止したり、経済的インセンティブを大きく変えるようなものはNudgeとは言わない。
- 簡単でかつ安価に避ける事ができる。
この但し書きの条件が非常に重要になりますのでしっかりと覚えておきましょう。
Nudgeの具体例としては
- 健康に良い食品を店舗の最も目立つ場所に配置する。
- ハンバーガーセットのサイドメニューのデフォルトをサラダにし、無料でフライドポテトに変更可能とする。
一方で前述の定義に照らし合わせると以下のような施策はNudgeとは呼びません。
- 砂糖税のような課税による政策
- 禁煙指導におけるインセンティブ付与
- 事業所での全面禁煙
もちろんNudgeではないからといってその施策の有効性に問題があるわけではありません。Nudgeであろうがなかろうが、その施策の有効性は個別に検証されるべきです。
またNudgeは既存の施策を代替するものではなく、それぞれの長所・短所を理解した上で利用されるべきだと考えます。
Sludgeに注意
一方でNudgeを悪用するケースが世の中ではチラホラを見られます。
- インターネット通販で注文するとデフォルトでメールマガジンが配信されるようになっている。
- 有給休暇の日程を勝手に割り当てられ、上司に有給休暇をとれない理由を説明しない限りデフォルトから離脱(=Opt out)出来ない。
といった具合です。
Richard Thalerの講演を聴きにいったことがあるのですが彼はその中で
evil nudge(悪徳ナッジ)はsludge(泥)だと発言していました。
世の中には行動科学の知見を悪い方向に用いる人も大勢いるので注意が必要ですね。
これらを踏まえてThalerは、正しいNudgeであるためには
- 透明性があり、誤解がないこと。
- 離脱が容易であること。
- ナッジされることで被験者に利益があること
という条件が必要であると提案していました。
Nudgeはあくまでも、”良い”行動(運動・健康的な食事・貯金など)が大切なのはよく分かっているけれど、上手く行動に移せない人を支えるためのものです。
第三者の利益のために人を”操る”ためのものであってはならないということだけは肝に銘じておきましょう。
世の中は空前のNudgeブームですが、Sludgeも大量に紛れ込んでいるので上記の3条件に合致しているかをしっかりと吟味する必要がありそうです。
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